自動車雑誌の編集者として長年新型車を追いかけていると、メーカーが誇らしげに語るスマートエントリーという言葉に隠された、ユーザーの戸惑いを耳にすることがあります。読者からの問い合わせで特に多いのが、自分の車に付いているのはキーレスなのかスマートキーなのかという初歩的な、しかし切実な疑問です。この二つの違いは、一言で言えばパッシブかアクティブかという制御のあり方に集約されます。キーレスエントリーは、ユーザーが自分の意志でリモコンのボタンを押すことで動作を開始するアクティブなシステムです。一方、スマートキーはユーザーが何もしなくても、鍵と車両が勝手に会話をして状況を判断してくれるパッシブなシステムです。技術の歴史を辿れば、九〇年代に普及したキーレスが、二〇〇〇年代に入ってからスマートキーへと進化したという経緯があります。高級車から始まったこの流れは、今や軽自動車にまで波及し、標準装備されるのが当たり前になりました。しかし、この進化の過程で、使い勝手の面での混乱も生じました。例えば、一部のメーカーではキーレスエントリーのリモコンとスマートキーのデザインを似せていることがあり、外見だけでは判別が難しい場合があります。見分けるための最も簡単な方法は、運転席のドアノブに小さなボタンがあるか、あるいはセンサーが内蔵されているかを確認することです。もしドアノブに触れるだけで開くのであれば、それはスマートキーです。また、車内に鍵穴がなく、スタートボタンがあるかどうかも大きな判断材料になります。さらに興味深いのは、スマートキーの内部に隠されたエマージェンシーキーの存在です。スマートキーを分解してみると、中から小さな金属の鍵が出てきます。これは電池が切れた時にドアを物理的に開けるためのものですが、スマートキーに慣れきったユーザーの中には、自分の車に鍵穴があることすら忘れている人も少なくありません。キーレスエントリーの時代には、電池が切れてもスペアキーを使えば済みましたが、スマートキーの場合は電池切れの際のエンジン始動方法にコツが必要な車種も多いため、事前に取扱説明書を確認しておくことが推奨されます。スマートキーとキーレスの違いは、単なる名称の差ではなく、車というプロダクトに対する設計思想の違いでもあります。鍵を操作するという「儀式」を日常から排除したスマートキーの功罪について、私たちはもっと深く知っておくべきかもしれません。
知っているようで知らないスマートキーとキーレス?