「家の鍵を全部なくしてしまった」「中古で買った机に、そもそも鍵が付いていなかった」。そんな、元となる鍵(元鍵)が一本も手元にない絶望的な状況でも、新しい鍵を作り出すことは可能なのでしょうか。結論から言うと、プロの鍵屋に依頼すれば、鍵穴から新しい鍵を「作成」することができます。ただし、これは普段私たちが行う「複製」とは全く次元の異なる作業であり、その値段も方法も大きく異なります。元鍵がない状態からの鍵作成の値段は、一本あたり一万円から五万円、あるいはそれ以上かかることも珍しくありません。なぜこれほど高額になるのか。それは、単純なコピー作業ではなく、鍵の設計図そのものをゼロから解き明かす、高度な技術と時間を要するからです。プロが行う主な作成方法は二つあります。一つは、「キーナンバーからの作成」です。鍵や錠前本体に刻印された固有の製造番号(キーナンバー)が分かれば、それを元にメーカーのデータベースを照会し、正確な鍵を削り出すことができます。この場合は、比較的安価な一万円台から作成可能なこともあります。しかし、キーナンバーが不明な場合は、二つ目の方法である「鍵穴からの作成」という、まさに職人技が必要になります。鍵師は、特殊なスコープで鍵穴の内部を覗き込んだり、繊細な工具を使って内部のピンの高さを一つひとつ測定したりして、鍵山の形状を割り出していくのです。この作業は極めて難易度が高く、多くの時間と集中力を要するため、作業費も高騰します。特にディンプルキーのような複雑な構造の鍵では、作成が不可能な場合や、非常に高額になることもあります。こうした場合は、最終的に鍵を作成するのではなく、錠前(シリンダー)ごと新しいものに交換するという選択肢が現実的になることもあります。元鍵をなくすという事態は、単に不便なだけでなく、大きな金銭的負担を伴うことを覚えておくべきでしょう。