専門業者は、「非破壊開錠」と「破壊開錠」、主に二つの異なるアプローチで、その固く閉ざされた扉に挑みます。この二つの方法は、文字通り金庫を壊すか壊さないかの違いですが、それぞれにメリット・デメリットがあり、かかる費用や時間、そして、その金庫が今後も使えるかどうかという、運命を大きく左右します。どちらの方法が適しているか、その違いを正しく理解しておくことが重要です。まず、「非破壊開錠」とは、金庫本体や錠前の機構を一切傷つけることなく、鍵の操作技術だけで扉を開ける方法です。ダイヤル式の金庫であれば、聴診器のような道具を使い、内部のディスク(タンブラー)が揃う、ごくわずかな音や感触の変化を探り当てる「ダイヤル解錠(探り解錠)」。シリンダーキー(鍵穴があるタイプ)であれば、ピックツールと呼ばれる特殊な工具で、鍵穴内部のピンを操作する「ピッキング」。これらの方法が用いられます。非破壊開錠の最大のメリットは、開錠後も、その金庫をこれまで通り、問題なく使い続けることができる点です。思い出の詰まった大切な金庫や、高価な金庫を、傷一つなく開けられるのは、この方法しかありません。しかし、デメリットとして、非常に高度な技術と経験、そして高い集中力を要するため、作業に時間がかかること、そして、その高度な技術料として、費用が高額になる傾向があることが挙げられます。一方、「破壊開錠」とは、ドリルや電動カッター、ハンマーといった電動・手動工具を使い、錠前の部分や、扉の蝶番(ヒンジ)などを物理的に破壊して、強制的に扉を開ける方法です。破壊開錠のメリットは、何と言ってもその「スピード」です。非破壊開錠では数時間かかるような、複雑で難解な金庫でも、比較的短時間で開けることが可能です。そのため、中に急いで取り出したいものがある場合や、費用を少しでも抑えたい場合に選択されることがあります。しかし、その代償は大きく、破壊された金庫は、当然ながら二度と金庫として使うことはできません。また、破壊の際に発生する火花や熱、振動、金属片などで、中に保管されている現金や書類、データメディアなどが損傷してしまうリスクも伴います。通常、業者に依頼する際には、まず「非破壊開錠」での対応が可能かどうかを相談し、それが技術的に、あるいは時間的に不可能な場合にのみ、最終手段として「破壊開錠」を検討する、という流れが一般的です。