玄関の鍵が引っかかる時、私たちは無意識のうちに「鍵穴」に問題があると考えがちです。しかし、トラブルの原因が「鍵」そのものにあるケースも決して少なくありません。毎日使う鍵は、私たちが思う以上に過酷な環境に置かれており、時間とともに劣化していく消耗品なのです。最も多い鍵側の原因は、摩耗です。鍵は金属でできていますが、鍵穴内部のピンも同じく金属です。硬い金属同士が毎日擦れ合うことで、鍵のギザギザした山や溝は少しずつ削られ、角が丸くなっていきます。この摩耗が一定のレベルを超えると、鍵を差し込んでも内部のピンを正しい高さまで持ち上げることができなくなり、結果として鍵が回らない、あるいは引っかかるといった症状が現れるのです。特に、オリジナルの純正キーではなく、街の合鍵屋さんで安価に作製したスペアキー(複製キー)は、元の鍵との間に微細な誤差が生じやすく、摩耗が早く進む傾向があります。また、鍵の変形や歪みも大きな原因となります。ズボンのポケットに入れたまま座ったり、カバンの中で他の硬い荷物とぶつかったりすることで、私たちの目には見えないレベルで鍵がわずかに曲がってしまうことがあります。精密な鍵穴の内部では、このわずかな歪みが致命的な引っかかりの原因となるのです。さらに、複製を繰り返した精度の低い鍵を使っている場合も要注意です。孫鍵、ひ孫鍵と複製を重ねるごとに誤差は大きくなり、鍵穴内部を傷つけてしまうリスクさえあります。もし鍵の不調を感じたら、鍵穴を疑うと同時に、まずは一度、購入時に付属していた純正のスペアキーなど、普段使っていない綺麗な鍵で試してみてください。もしそれでスムーズに動くようであれば、問題の原因は鍵穴ではなく、今使っている鍵の摩耗や変形にあると判断できます。その場合は、鍵穴を修理するのではなく、新しい純正キーを取り寄せるのが最も確実な解決策となります。
鍵の不調は鍵穴だけが原因じゃない