暗証番号が不明な、ダイヤル式の金庫。その固く閉ざされた扉を、プロの鍵師は、どのようにして開けるのでしょうか。映画やドラマでは、名探偵が聴診器を当て、いとも簡単に開けてしまうシーンが描かれますが、現実の技術は、それ以上に繊細で、長年の経験と研ぎ澄まされた集中力が求められる、まさに職人技の世界です。この、金庫を破壊することなく、ダイヤル操作だけで開ける技術は、専門用語で「探り解錠」あるいは「ダイヤルリサーチ」と呼ばれています。その基本原理は、ダイヤルをゆっくりと回しながら、内部の機械構造が発する、ごくわずかな音や、指先に伝わる微細な感触の変化を捉え、そこから暗証番号の組み合わせを、論理的に推測していくというものです。鍵師が使う道具は、高性能な聴診器や、時には、鍛え上げられた指先の感覚そのものです。まず、鍵師は、ダイヤルをゆっくりと回しながら、内部にある複数枚のディスク(タンブラー)が、特定の位置に来た時にだけ発する、ごく小さな「クリック音」や、ダイヤルの回転が、ほんのわずかに重くなる「抵抗感」を探し出します。この変化が起こるポイントは、「コンタクトポイント」と呼ばれ、ディスクに彫られた切り欠き(ゲート)が、かんぬき(デッドボルト)の機構の一部(フェンス)と、接触する点を示しています。鍵師は、全てのディスクのコンタクトポイントを、何度もダイヤルを回しながら、根気よく探し出し、その数値を正確に記録していきます。そして、記録した複数の数値の関係性を、長年の経験と、金庫の構造に関する深い知識に基づいて分析します。数値の幅や、特定の数値との差などを、数学的な計算や、専用のグラフ(リサーチグラフ)に当てはめることで、考えられる暗証番号の候補を、いくつかに絞り込んでいくのです。最後は、絞り込んだ候補の番号を、実際に一つずつ試していき、正解の番号にたどり着きます。この作業は、金庫の構造やディスクの枚数、そして経年劣化の状態によって、数十分で終わることもあれば、時には数時間を要することもあります。周囲のあらゆる騒音を遮断し、極限まで集中力を高めなければ、聞き逃してしまうほどの、微細な変化を捉えなければなりません。それは、まさに金庫という、沈黙する機械との、静かで、しかし熱い対話なのです。
プロはこう開ける!金庫のダイヤル解錠の秘密