アパートの鍵をなくしてしまった時、多くの人は、目の前の「家に入れない」という問題や、「管理会社にどう説明しよう」という悩みに気を取られ、その後の公的な手続きまで頭が回らないかもしれません。しかし、家に入れた後、あるいは鍵屋を待っている間に、必ず行っておくべき、非常に重要な手続きがあります。それが、警察への「遺失物届」の提出です。面倒に感じるかもしれませんが、この一手間が、後々のあなたを、様々なリスクから守ってくれる、強力な盾となるのです。遺失物届を出すべき理由は、大きく二つあります。第一の理由は、「鍵が見つかる可能性を高める」ためです。もし、誰かがあなたの鍵を拾い、親切に最寄りの交番や警察署に届けてくれた場合、遺失物届がデータベースに登録されていれば、警察は、落とし物と届け出の内容を照合し、あなたに連絡をくれます。もし届け出ていなければ、警察も落とし主を探す術がなく、鍵は一定期間保管された後に処分されてしまいます。鍵が見つかりさえすれば、数万円かかることもある鍵の交換費用を、支払わずに済むかもしれません。そのわずかな可能性に賭けるためにも、届出は不可欠です。そして、第二の、より重要な理由が、「防犯上の観点」と「あなた自身の身を守るため」です。万が一、あなたのなくした鍵が、悪意のある第三者の手に渡り、空き巣などの犯罪に悪用されてしまったとします。その際、あなたが事前に遺失物届を提出していれば、それは、あなたが鍵の紛失というリスクをきちんと認識し、社会的な責任を果たそうとしていたことの、動かぬ公的な証拠となります。これは、後の警察の捜査や、もしもの際の保険金の請求手続きなどにおいて、あなたにとって有利な材料となる可能性があります。逆に、届出を怠っていると、「鍵の管理がずさんだった」と見なされ、不利な立場に置かれることにもなりかねません。遺失物届は、最寄りの交班や警察署の窓口で、簡単な書類に、氏名、住所、連絡先、そして紛失した鍵の特徴(メーカー名、キーホルダーの有無など)や、なくしたと思われる日時・場所などを記入するだけで、数分で完了します。鍵の紛失という動揺の中で、冷静にこの手続きを行えるかどうか。それは、単に鍵を見つけるためだけでなく、自分の安全と財産を守るための、責任ある行動と言えるでしょう。