私たち出張鍵屋に、車のスマートキーを紛失したという一本の電話が入る時、それはいつも緊急事態の始まりを告げる合図です。電話の向こうからは、お客様の焦りや不安がひしひしと伝わってきます。私たちはまず、お客様を落ち着かせ、車種、年式、そして現場の状況を正確にヒアリングすることから仕事を始めます。これが、その後の作業をスムーズに進めるための最も重要なステップです。現場は、お客様のご自宅の駐車場であったり、出先の商業施設の広大な駐車場であったり、時には人里離れた山道であったりと様々です。現場に到着後、まず行うのはお客様の身分証明書と車検証を確認し、ご本人様の車であることを確実に証明していただくことです。これは、盗難などの犯罪を防ぐための絶対的なルールです。確認が取れ次第、いよいよ作業開始となります。スマートキーが一本もない状態では、まずドアを開けることから始めなければなりません。ピッキングと呼ばれる特殊技術を使い、鍵穴からドアを傷つけることなく解錠します。車内に入ることができたら、次は物理的な鍵、いわゆるメカニカルキーの作成です。ドアの鍵穴の内部構造を特殊なスコープで読み取り、そのデータを元にサービスカーに搭載したキーマシンで金属のキーをその場で削り出します。しかし、本当の勝負はここからです。最も専門性を要するのが、スマートキーの心臓部であるイモビライザーの登録作業です。専用のコンピューター診断機を車のOBD2ポートに接続し、車両のコンピューターシステムにアクセスします。ここからは、メーカーや車種ごとに異なる複雑な手順を踏み、新しいスマートキーに内蔵されたICチップのIDコードを車両に「このキーが新しいご主人様ですよ」と教え込む作業を行います。この電子的な認証が成功しなければ、いくらキーがあってもエンジンはかかりません。全ての登録作業が完了し、お客様に新しいキーをお渡ししてエンジンが無事にかかった瞬間、安堵のため息とともに浮かぶお客様の笑顔を見ることが、この仕事における最大のやりがいであり、私たちの誇りです。
鍵屋さんが語るスマートキー作成の現場