開かなくなった金庫を前に、焦りと苛立ちから、「もういっそ、バールか何かでこじ開けてしまおうか」という、破壊的な衝動に駆られることがあるかもしれません。特に、中に入っているものに緊急性がある場合、専門業者を待つ時間が、もどかしく感じられるでしょう。しかし、その衝動に任せて、自分で金庫を破壊しようと試みることは、百害あって一利なしの、最も愚かで、そして危険な選択と言えます。その理由は、大きく三つあります。第一に、「極めて危険である」ということです。金庫は、その名の通り、大切な財産を、盗難や火災から守るために、非常に頑丈に作られています。特に、防盗金庫と呼ばれる高性能なものは、ドリルやハンマー、電動カッターといった工具による破壊にも、長時間耐えられるよう、特殊な合金の鋼材や、工具の刃を消耗させるための充填材(コンクリートや特殊な砂など)が、分厚い壁の中に仕込まれています。素人が、ホームセンターで手に入るような、中途半端な工具で立ち向かっても、まず歯が立つものではありません。無理な力を加えれば、工具が破損して、その破片が目などに飛び散ったり、跳ね返ったバールで自分自身が大怪我をしたりする危険性が、非常に高いのです。第二に、「中身を損傷させてしまうリスク」です。たとえ、幸運にも扉の一部を破壊できたとしても、その過程で発生する、摩擦による高熱や、激しい火花、そして強烈な振動や、飛び散る金属の破片などが、金庫の中に保管されている、現金や有価証券、宝石などを傷つけ、その価値を著しく損なってしまう可能性があります。特に、熱や磁気に弱い、USBメモリやハードディスクといったデータメディアを保管していた場合、その中に保存されている、かけがえのない思い出や、重要な業務データは、完全に失われてしまうかもしれません。金庫を開けるという目的は達成できても、その中身が台無しになってしまっては、本末転倒です。そして、第三の理由が、「結局は、高くつく」ということです。自力での破壊に失敗し、ずたずたになった金庫を前に、結局は専門業者を呼ぶことになった場合、すでに金庫が損傷していると、プロでも作業がやりにくくなり、かえって手間がかかって、追加料金を請求される可能性があります。金庫のトラブルは、素人が手を出して解決できる問題ではありません。