あれは肌寒い秋の夜、仕事の飲み会が長引き、終電で最寄り駅に着いた時には日付が変わっていました。千鳥足で自宅アパートの前にたどり着き、さて鍵を開けようとカバンを探った時、全身の血の気が引くのを感じました。あるはずの場所に、鍵がないのです。カバンの中身をすべて路上にぶちまけて探しても、コートのポケットを何度確認しても、鍵は見つかりません。飲み屋に忘れてきたのか、それとも道中で落としたのか。いずれにせよ、今、私は家に入ることができません。家族はとうに寝静まっており、電話をかけても起きる気配はありません。途方に暮れ、スマートフォンの画面に浮かぶ時刻は午前二時を回っていました。その時、ふと「鍵屋」という単語が頭に浮かびました。震える指で「鍵屋 深夜」と検索すると、いくつかの出張専門の鍵屋さんのサイトがヒットしました。藁にもすがる思いで、二十四時間対応と書かれた一番上の業者に電話をかけました。電話口の男性は、私のパニック気味な説明を冷静に聞き、おおよその料金と到着予定時刻を明確に伝えてくれました。その落ち着いた対応に、少しだけ心が安らいだのを覚えています。三十分ほどで到着します、との言葉通り、一台のサービスカーが静かにアパートの前に停まりました。降りてきた作業員の方は、手際よく身分証の提示を求め、私が居住者であることを確認すると、すぐに作業に取り掛かりました。私はてっきり、何か特殊な機械でドアを壊すのかと身構えていましたが、彼が取り出したのは細長い工具のセットだけでした。鍵穴に工具を差し込み、耳を澄ませながらカチカチと操作すること、わずか数分。ガチャリ、という音とともに、あれほど頑なに閉ざされていたドアが静かに開いたのです。その瞬間の安堵感は、今でも忘れられません。作業員の方は、鍵の構造や今回の作業内容について丁寧に説明してくれ、提示された料金も電話で聞いた通りの金額でした。クレジットカードで支払いを済ませ、ようやく入れた我が家。冷え切った体に温かいベッドが染み渡りました。この夜の経験を通じて、私は出張鍵屋さんの技術の高さと、その仕事の重要性を身をもって知ることになったのです。